ひとりぶろぐ

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先日、メルカリで往年の名機hp 200LXを購入。

この個体は液晶が黒く変色していることを理由に、ジャンクとして非常に安く買えた。

筆者にとって、これは3台目のhp 200LXだ。しかし、別に懐古趣味で蒐集しているわけではない。

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本機は昔の機械なれどれっきとしたPCであり、VZ Editor、ATOK8というソフトウェア史に燦然と輝く名作が動き、現代水準で評価しても素晴らしい使い勝手を発揮する。

単3乾電池2本で30時間動作(ノーマル時)し、瞬時のサスペンド、サスペンドからの復帰が可能。

サスペンドさせたままなら、いつ電池交換したのかを忘れるぐらい電池の持ちがいい。少なくとも1カ月以上は電池が持ったはず。今は自己放電特性が優秀なエネループがあるから尚更だ。

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本機は人に寄り添い、人生に溶け込むかのような使い勝手を持っている。

インターネットの喧騒が忘れせしめた、静謐な書斎がここにはある。

こんな名機だからまだ使っている人はいて、液晶が真っ黒に変色したようなコンディションでも、ひとたび場所をYahoo!オークションに移せば10,000円以上の値段が付く。

売る人にとってはヤフオクがいいけれど、買いメインの人にとってはメルカリがいいね。

しかし、メルカリでこまめに出品をチェックしていると、どう考えても即買いするしかない物件が自分基準で一月に5〜6件はあり、別の意味で買い手泣かせだ。

ビネガーシンドローム修理への挑戦

さて、この液晶の変色は1994年前後の製造からゆうに20年を超す本機に結構な確率で起きる持病のようなもので、オーナーはいつ自分のものに発症するか戦々恐々としている。

恐らく10台以上溜め込んでいる人も少なくないだろう。そんなオーナーの虎の子の液晶が1台、また1台と黒く変色していくと考えると戦慄が走る。

自分が元々持っていた2台には起きておらず、この症状が出ている個体を初めて眼前にした。

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液晶は無惨に黒く変色し、表面は波打ってさえいる。当然表示されている文字は読めようはずもなく、前オーナーが絶望して捨て値で放出したのも分からなくはない。

しかし、コアユーザーの間ではビネガーシンドロームとして認知されているこの症状には修理方法が確立されており、ユーザー自身の手で直すことができるのだ。

その修理を体験してみようと思い購入したところもある。修理に当たっては、かつては修理を請け負い、hp 200LXの修理情報を集積してくださっているLX-RESTさん、

そして、こちらの記事を参考にさせてもらった。

液晶の変色はモノクロ反射型液晶の表面に貼られた偏光板で起きていて、液晶自体は無事であることがほとんど。

別の表現をすると、液晶のガラスの上に偏光板のシールが貼られていて、そのシールだけが悪くなるということ。

偏光板が劣化したのならそれを剥がし、新しい偏光板と交換すればいいというわけだ。

……ということは理解していても、本当に惨い見た目で本当に直るのか心配だ。液晶本体が腐ってしまったんじゃないだろうか? そんな風にも思える。

変色した偏光板の剥ぎ取り

首尾良くいけば、液晶前面の塩化ビニール製と思しきベゼルを剥がすだけで偏光板に手を付けることができるとのことなので、まずはベゼルを剥がしてみた。

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1999年ぐらいに一度やったので、おおよそ20年ぶりの作業。そのときはカッターをベゼルの外側の縁の部分に差し込んで少し傷付けた記憶があるので、iPhone分解ツールセットのスクレイパー(幅広)を内側から差し込んで上に持ち上げるようにしたら、無傷でベゼルを剥がせた。

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すると、露出する額縁状の金属フレームの内側だけで完結する形で偏光板が貼られているので、確かにこの状態からでも剥がしようはありそうだ。

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角の部分から剥がそうとするも、金属フレームより一段くぼんだところに液晶表面がある関係で、偏光板を剥がすために用意したギターのピック状のツールを立てて使わざるを得ず、液晶を上から押す形になって液晶に悪影響が出そうだということ。

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そして、垂直に近い角度から道具を入れても埒があかず、結局液晶を金属フレームから出して作業をすることにした。

液晶前面のパネルだけを外せばよさそうなものなのでそうしようと思うも、液晶前面のパネルはヒンジ部分と一体構造になっている関係でヒンジを分解しないとならない。

ヒンジを分解するには、中を通っているフレキシブルケーブルを退避させないと心配ということで、素直に全部分解することにした。

分解の手順は、LX-RESTさんがたくさんの情報を掲載してくださっているので困ることはない。

分解の一部始終を収録した動画も作ってくださっている。これを見れば作業手順に確信を持てる。手際が良すぎて度肝を抜かれるが。

はまりどころがいくつかあるが、1999年当時はここまでの情報が手に入る状況でなかったので、自分がどうやって分解していたのか不思議だ。

液晶を金属フレームから取り出せば水平に近い状態でスクレイパーを差し込めるので、すぐに偏光板を剥がせた。その代わり、ほぼ完全にバラバラの状態にまで分解が必要なので、その代償は大きい。

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ちなみに、金属フレームを外した後、組立時にどちら向きに付けるか分からなくなって往生した。横方向に張り出しが長い方がHITACHIのロゴがある方になる。

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偏光板を剥がすと、噂に聞く光画部写真部の部室のような酸っぱい臭気が鼻を突いた。

自分の場合も、やはり硬化した粘着物質がほぼ全部液晶上に残ってしまった。

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まれにツルリと綺麗に剥がれることもあるそうだ。

無水アルコールのみによる粘着物質のクリーニング試行

硬化した粘着物質を液晶のガラス表面から取り去るのに接着剤剥がし、油絵の具剥がしといったケミカルを使うそうだが自分は持っていなかったので、ひとまず無水アルコールとキムワイプでやってみたところ、落ちることは落ちるが硬化した粘着物質がヤスリのように機能し、キムワイプや、加水分解クリーニングで八面六臂の活躍をしたワイプオールであってさえ紙の繊維をまき散らす始末で、溶剤はともかく、スクレイパー(へら)の必要を強く感じた。

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道具の買い出し

早速買い出しだ。

とりあえずYahoo!オークションで偏光板は買ってあったものの、作業難度が高いと思われる粘着付きのものだったので、念のため東急ハンズでhp 200LXユーザーの間で定番となっている接着剤なしの25cm角の偏光板「ミッドタウン BSP-250」(税込1,090円)を購入。渋谷の東急ハンズなら、4Cの照明器具売り場にある。隣に接着剤ありのものが売っているので、間違えないように注意した。

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そして、ジェル状のクリーナー「高森コーキ ガムテープフック跡はがし」(税込515円)を購入。

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クリーナーは清掃面に塗布した後時間を置いて剥がす、いかにも効きそうな使い方が指示されていたこと、そしていい感じの樹脂製スクレイパー(へら)が付いていたことが購入の理由。ガラス面に傷を付けないよう、樹脂製のスクレイパーが欲しかった。

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ジェル状クリーナー・ガムテープフック跡はがしによるクリーニング

液晶天地の白と黒のツートンの部分にシリコンのシートが乗っているので、それを剥がして保管しつつ、ドラフティングテープで机に液晶を固定しつつマスキング。

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早速液晶にクリーナーを塗布。少しシンナー臭さのあるジェルで、効きそうだ。

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30分ほどして見てみると、硬化し、透明だった粘着物質が白く濁った感じになっており、軟化しているのが一見して分かる。

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スクレイパーでこそげ落とすと、雪かきをするがごとくスクレイパー上に軟化した粘着物質が積み上がっていく。

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上層の軟化した粘着物質はいいものの、新たに顕になった下層の粘着物質はクリーナーに接触していないせいだろう、まだ硬く、スクレイパーでこそげ落とそうとするとゾリゾリという音がする。

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こそげ落とせるところまでスクレイパーで落とし、ゾリゾリと音のする下層を露出させたらまたクリーナーを塗布して時間を置くことにした。下掲の写真は、その後2順した過程のものだ。それぞれ20分〜30分時間を置いて作業をし、初回含め全部で3順で固着した粘着物質をすべて落とすことができた。

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購入したクリーナーは接着剤落としよりやや弱めかもしれないと思ったが、表面から一定の深さまでは着実に仕事をしてくれるので、回数を重ねて無事完了となった。

無水エタノールによる仕上げ

最後の仕上げにキムワイプと無水エタノールを使用。

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チリ、曇り一つない完璧にクリーンな状態にできた。

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ここまできたら組み立てだ。180度開ききった状態でしか使わず、摺動が固めだとヒンジの破壊につながるのが気になるので、ヒンジ内のスプリングをベンチバイスで圧縮して短縮(11.19mm→9.49mm)。

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偏光板の角度調整、切り出しと取り付け

偏光板を取り去った液晶の前に新しい偏光板を当てる。結局Yahoo!オークションで買った方は厚手で暗くなりそうなこと、そして粘着を処理する元気がなくなり使わなかった。変に安く済まそうとするより、BSP-250を買うに越したことはない。

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偏光板を当てる角度を変えると、見え方がいろいろに変わり面白い。

一番いい見え方をする角度を探し、アタリを取る。「ミッドタウン BSP-250」は、両面保護シートが付いているので、こんな感じの扱いをしても大丈夫だ。良好な角度を探す際は、そこら中を歩き回って、光源をいろいろに変えて評価するべきだ。最初は窓際の明るいところだけで吟味していたが、環境が変わるとスイートスポットは変わるからだ。

といいつつも、いまだに最終的に採用した角度がベストだったのか自信がない。

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続いて、液晶の周囲を取り囲む金属フレームの内枠のサイズを測る。横126.7mm。

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縦51.09mm。

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ピッタリ切り出せようはずもないので、少し大きめを意識して、直角を出すよう気を使いつつ適当に切り出し。結局、そこら中を歩き回って吟味した結果、最初に窓際でアタリを取ったのとは違う角度を採用した。25cm角の偏光板からは、少なくとも3台分ぐらいは切り出せそうだ。1枚1,090円だから、1台当たり363円の計算。

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保護シートを付けたまま嵌め、サイズを微修正。筆者の場合はファーストトライで縦が少し大きかったので、わずかに削って金属フレームにピッタリ嵌まるサイズに調整できた。

そんなに厳密さは要求されないので、まず失敗する人はいないだろう。

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さて、いよいよ偏光板の保護シートを外して液晶の上にじかに乗せる。その前に、液晶を今一度クリーニング。微細な埃も残しておきたくないので、直前にエアダスターで埃を吹き飛ばした。

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保護シートを剥がし、偏光板を液晶の上に素早く乗せた。接着剤なしなので、ただ乗せただけだ。この状態で液晶を前に傾ければ偏光板が落ちてきてしまう。

一方で、接着しないので、気泡が入る心配もない。その代わり、偏光板が若干液晶表面より浮いた感じになるため、偏光板の表面がわずかに波打った感じにはなる。

そう、まず失敗しないのだ。貼らない。置くだけ。難しくはない。難しいのは右ヒンジの組み立てだけだ。右ヒンジに入れるスプリングを短くしたのには、その難度を下げる意味もある。

※右ヒンジといえば、芯に入れる金属のパーツ、棒状のものを下側のボディーに差し込む作りになっているが、その棒にセラグリスHG(樹脂を侵さないグリス)を塗っておくと組み立てが楽になる。

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心配はいらない。この上に元あったベゼルを貼り付けると、ベゼルの開口部は偏光板のサイズより一回り小さいため、偏光板自体を固定せずとも支障がないのだ。

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仕上がりの確認とオリジナルの液晶との比較

仕上がりはどうだろうか。オリジナルの状態と比較すると黄ばんだ感じになり、コントラストは偏光板の角度調整をしてもオリジナルほど高めることができなかった。そして、表面はグロス仕上げとなり、光源が反射するようになった。

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総じてオリジナルに勝るところがない状態だが、思い出してほしい。これはさすがに諦めた方がいいのでは? と絶望するほどの変色を。

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それを考えれば、まがりなりにも普通に使えるようになったのは素晴らしいことだ。今回は接着剤を用いていないので、いつでも偏光板を交換できる状態だというのもいいじゃないか。

それでも、オリジナルの液晶を横に並べてみるともう少しどうにかならないかと思わなくもないが、少なくともビネガーシンドローム発症によりhp 200LXの命運が尽きることはないということが確認できたのはよかった。

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今回使った道具総覧。

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