MS−DOS版Mobile Gear(モバイルギア)のメンテナンス(加水分解・プラスチック破損)
2018/11/09
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2018/11/09
前回掲載のMS-DOS版Mobile Gear(モバイルギア)分解編に引き続き、メンテナンス編をお届けします。
分解方法さえ把握できてしまえば、クリーニングも補修も自由自在です。
加水分解したガジェットの掃除やプラスチックパーツの破損対策に関する一般的なノウハウにもなっていますので、非Mobile Gear(モバイルギア)ユーザーの方も読んでいってください。
もくじ
前回書いた通り、MS-DOS版Mobile Gear(モバイルギア)には外装にラバー塗装が施された機種があり、時間の経過で加水分解を起こしベタベタになってしまいます。
その影響を被るのは全6機種中4機種にもおよび、MS-DOS版Mobile Gear(モバイルギア)の泣き所といえます。
機種 | 外装 | ユーザーメモリ |
---|---|---|
MC-K1 | 無塗装 | 650KB |
MC-MK11 | ラバー塗装 | 650KB |
MC-MK12 | ラバー塗装 | 2MB |
Mobile Gear for DoCoMo | 無塗装 | 2MB |
MC-MK22 | ラバー塗装 | 2MB |
MC-MK32 | ラバー塗装 | 6MB |
触るのも嫌なほどベタベタになってしまい、捨ててしまった人も多いのではないでしょうか。
しかし、クリーニングをすればかなり綺麗になります。少なくともベタベタは完全に排除できます。
下掲の写真。これらは程度のいいものを買ったのではありません。ドロドロバキバキ、ジャンクとして出品されていたものを、今回の記事の知識を活用してレストアしたものです。
▼MC-MK32
▼MC-MK12
最も楽な加水分解対策は、ユーザーメモリが650KBと小さく、一方で無塗装の外装というアドバンテージを持つMC-K1をオークションなどで入手して外装を入れ替えることですが、下位機種のMC-K1といえど今となっては上位機種全体より玉数は当然少なく、特別安い金額で入手できるというわけでもないので、希少度が高いMC-MK32に対してなら決断できるというぐらいでしょうか。
それ以外の機種では、手持ちの外装をクリーニングすることを考えることになるかと思います。
加水分解したラバー塗装の拭浄には、無水エタノールやイソプロピルアルコールが使えます。
それらは外装に使われているABS樹脂をほとんど侵しません。
無水エタノールやイソプロピルアルコールを使えばスイスイと加水分解したラバー塗装が拭浄できるかというとそういうわけでもなく、満足行く水準にまで綺麗にするには、かなり根気よく拭き取る必要があります。
ウエスをこまめに替え、細かい場所は使い古しの歯ブラシなどで磨きといった具合で、数日はかかるレベルです。
その作業に耐えられるかどうかは、ひとえにMS-DOS版Mobile Gear(モバイルギア)への思い入れの強さによります。
最初に知っておくべきは、無水エタノールやイソプロピルアルコールで溶けるのは加水分解したラバー塗装だけだということ。
加水分解していないラバー塗装は、それらをもってしてもなかなか溶けません。
仮に加水分解しているのが上の方の層だけで、下層部分は加水分解していない場合、途中までは無水エタノールやイソプロピルアルコールで落ちるが、下の方だけは落ちないといったことにもなります。
この場合、ベタベタ部分は除去できるので実用上問題ないが、見栄えは悪いという結果を得ることになります。
上掲の写真がまさにそれで、ラバー塗装が一部残っていますが手触りはサラサラで、使用には全く問題ありません。
※注意喚起事項あり
加水分解していないラバー塗装であっても、無水エタノールやイソプロピルアルコールなどで根気よく拭浄していれば少しずつ落ちていきます。
もう少し策を講じたい場合は、イソプロピルアルコールにパーツを漬け込んでラバー塗装の加水分解を促進させるという方法があります。
外装全体を漬け込むには、容器にもよりますが液量1.5L程度必要です。
幸いにしてAmazonでイソプロピルアルコール4L約2,200円とリーズナブルな価格で入手可能なので、それを利用するのがベストかと思います。
無水エタノールには、ここまで安価なものはありません。
反応がよく進むのは液温25度以上ということなので、上がった後の風呂で湯煎したり、日向に置いたりという手が考えられます。夏場なら困りませんね。
11月でも、晴れた日なら液温30度以上にはなるようです。いちいちあっちこっちに持っていくのが面倒なので、最近は外に出しっぱなしです。一応可燃性の物質なので、扱いには注意が必要です。
無水エタノールだけでは落ちなかった加水分解の進んでいないラバー塗装が、数日漬け込み後のブラッシングで落ちるようになったりと戦果は挙げています。
ただ、2週間漬け込めばブラッシングでズルズル落ちるかというとそういう感じでもなく、話によれば数週間の漬け込みではまだまだで、数カ月スパンで付き合うもののようなので、この方法を採る場合は大きな期待をかけないようにした方がいいですね。
一方で、漬け込むことで加水分解に関係ない外装の内側も多少汚れるというデメリットもあります。
加水分解ラバー塗装拭浄作業はそもそも結構な長丁場で心が折れるということもあり、気力が尽きた休みの期間にパーツを漬け込んでおくと、その期間も一応は進捗があるという安寧が得られるメリットはあります。
この漬け込みを経た拭浄を終えたパーツに、白い変色が見られました。
それはクリアラッカーによる塗装を経ても隠し切れないもので、漬け込みによる悪影響と見ています。
漬け込みは、通常の拭浄では手に負えない状況が確認できて初めて採用すべきでしょう。
また、この処理を経たパーツの仕上げに使う塗装はクリアではなく、色の付いたものを使うといいと思います。
無水エタノール、イソプロピルアルコールを使った加水分解ラバー塗装落とし作業。
仕上げまでの具体的なプロセスを追ってみます。
手には使い捨てのポリエチレン手袋をはめます。作業用手袋にもいろいろありますが、ポリエチレン手袋は付け外しがしやすく、手がゴム臭くなったりしないのでおすすめです。
使い捨てのゴム手袋より付け外しがしやすく、また相対的に丈夫なこともあって再利用がやりやすく、1組を2日ぐらい使ったりします。
手袋をしていないと手が真っ青になってしまうほか、アルコールで脱脂されてカサカサになってしまうので、何らかの防水手袋は必須です。
ウエスは紙製のウエス、ワイプオールを使用。
相当しつこくこすることになるので、ちり紙や、ペーパータオルではすぐにボロボロのバラバラになってしまってダメです。
加水分解したラバー塗装は乾きかけのペンキのようなものなので、布製のウエスを洗って再利用ということもまたできません。使い捨ての紙ウエスがいいですね。
キムワイプは頑丈で、繊維がほどけてこない性質はなかなかいいのですが、もっとたっぷりとした量がないとアルコールで浮いてきたラバー塗装を満足にキャッチしてくれず、なかなかきれいになってくれません。
たまたま自転車の掃除のために買ってあったワイプオールですが、加水分解したラバー塗装の掃除にはうってつけでした。
ウエスにを無水エタノール・イソプロピルアルコールで湿らせ、拭浄していきます。
最初はラバー塗装が消しゴムのかすのような状態で落ちてくるので、周囲に新聞紙などを敷いて作業します。
アルコールで溶けたラバー塗装が別の場所に移転ということが起きてしまうので、ウエスが青くなったら別の面にひっくり返して、汚れた面でいつまでも拭かないようにします。
上記のルーチンを、拭いてもウエスがほとんど汚れない状態になるまで繰り返します。
かなり長い道のりです。一日で終わらせようとせず、何日かに分けてモチベーションをキープするようにした方がいいでしょう。
無水エタノール・イソプロピルアルコール(以下アルコールと総称)を歯ブラシのようなものに取り、段差のあるところなど、ウエスでは届かないところをブラッシング。
その直後に乾いたウエスで汚れた液を吸い取りといった感じで作業します。
ウエスでは段差があるところが綺麗にできません。
細かい場所は、綿棒の片側だけアルコールに浸し、もう片側は乾いた状態にしておいて、乾拭き用にする。それを交互に使うといい感じです。
ここまできても、外装の表面は白くなったり濁った感じになったり、拭いた跡が残っていたりであんまり綺麗になった感じがありません。
ここからは、アルコール拭きと乾拭きを交互にやっていきます。
アルコールで拭き、それが乾燥しないうちに乾拭きというスピード感です。
片手にアルコールで湿したウエス、もう片方の手に乾燥したウエスを持ち、それを交互に使う。
平たい部品ならウエスの一部をアルコールで湿し、それを机の上などに敷く。
磨く面を下にして部品をその上で滑らし、乾いたところと湿ったところを往復させるという手を使ったりします。
乾拭きをすると白い曇りのような汚れが取れ、艶が出てきます。
仕上げに、乾いたウエスで磨きを入れ、歯ブラシのようなもので縁などに残った白い曇りをブラッシングします。
ほぼほぼ白い曇りが取れ、艶が出てきます。
特にエンボス文字があったり、凸凹のあるところは念入りにブラッシングします。
ブラッシングには毛が細く、腰の強いブラシが向いています。毛が太いと角の部分に毛が届かず、角の部分の白い変色を取り切れません。
歯ブラシに毛が非常に細いものがありますが、あれはこの作業に向いていそうです。
広い面積をブラッシングするのに大きなブラシ、細かいところをブラッシングするのに毛の細い小さいブラシがあると完璧ですね。
ここまでの作業で満足できる仕上がりになっていれば、これで終わりです。
しかし、面積が広いところは、アルコールで拭いても乾拭きしてもブラッシングしてもムラのようなものが残ってしまい、気になることがあるかと思います。
その場合は、クリア(透明)のラッカースプレーを使うと綺麗になります。
艶がテッカテカになってしまうのが気になるといえば気になりますが、かなり綺麗に仕上がったので自己満足度は高いです。
▼写真右がラッカー仕上げ。
つや消しクリアを使うのも手かもしれませんが、それはそれで傷が目立つなどの別の問題が出るかもしれません。
スプレーは少し離れたところから軽めに吹き付けるとうまく仕上がります。液垂れの起こるスプレー直下には物を置かないという注意点も。
ヒンジの動きがしぶくならないよう、ヒンジ部分のマスキングテープによるマスクは必須です。
樹脂の白化を防ぐケミカルが売っていますが、これも効果がありそうです。
実際には当方で試していないので、使用する際は目立たないところに使うなど、事前に効果を確認してください。
MS-DOS版Mobile Gear(モバイルギア)は、ヒンジの左側だけに力がかかる構造になっている関係で、左側のヒンジが崩壊しがちです。
筆者がヤフオクやメルカリで入手した5台のうち、2台はヒンジの左側が割れていました。
しかし、これは直せます。直るばかりか、オリジナルの状態より強化すらできます。
大概MS-DOS版Mobile Gear(モバイルギア)の中古を入手するとヒンジの割れに至っておらずとも、開閉に伴って「ギギ!バキッ!ギギギ!」という嫌な音がする状態になっているものですが、きっちり直すとほぼ無音で開閉できるようになります。
まだヒンジが割れておらずとも、転ばぬ先の杖ということでやっておくといいと思います。
補修・調整にはプラリペアという補修材、そしてCRC 5-56を使います。
液晶背面のパネルの左ヒンジ部。割れがあればそれを塞ぐようにマスキングテープなどで目止めをします。ボディ表面にプラリペアが流れないよう栓をしている状態です。
可能なら、割れがある部分をリューターで削ってV字型に加工しておきます。接着面を広く取る意味があります。
そして、割れに沿うように、また強度を担うビス穴のある辺りにプラリペアを充填していきます。1〜2時間も待ったらこれでもうヒンジの修理は完了で(ビス穴は後で手当)、しかもオリジナルより強度が上がっています。この辺りをグニグニしてみると、相当カッチリしている感じが伝わってきます。
別の個体での同箇所の補修例です。ここを強化すると、ヒンジ開閉のスムーズさが全然変わってきます。
プラリペアはリキッドと粉から成る補修材で、粉にリキッドを混ぜると硬化が始まる仕組みになっています。混ぜるまではリキッドがわずかずつ蒸発していく以外は何も起きません。15年以上前に買ったプラリペアがまだ使えたぐらいです(笑)。
といった感じで進めます。
使い方が非常に難しそうで無茶苦茶気が進まない、絶対自分にはできないと思ってしまうでしょうが意外と簡単です。
硬化した後のプラリペアは非常に硬く、また想像を遥かに超える強度が実現されるので、実際にやってみるとたちまちプラリペアのとりこになるでしょう。
日常に一切存在しないタイプの補修材で、何がどのようになるのかがなかなか想像できないと思いますので、一度何か無用のプラスチック片でテストしてみることをおすすめします。
プラリペアの使いこなしであると百人力なものにリューターがあります。先出のようにV字加工に必要なことは元より、盛りすぎたなと思ったら乾くまで待ち、リューターで削って修正という選択肢があると、もう何も怖くありません。
リューターで削ると白くなりますが、そこにプラリペアのリキッドを垂らすとまた黒くなります。
外装のヒンジ部の割れを補修したら、ヒンジの金具にもCRC 5-56で注油しておきます。ほとんど隙間がないので、CRC 5-56の浸透性が頼りがいのあるものに感じられます。
CRC 5-56は樹脂を侵すので、オイルアップ後はよく拭っておきます。
ヒンジ周辺にラバー塗装が乗っています。ちょうどラッカー塗装のところでマスキングせよとした部分ですが、綿棒などを使わないとクリーニングしづらい部分で、ともすると残したままにしがちです。
ここも確実にキレイにしておきます。
ヒンジ部分のビスは非常に重要ですが、こともあろうにこの個体ではビス穴が崩壊していました。
これもプラリペアで補修します。
まずはこのビス穴にはめるビスにCRC 5-56を吹きます。(プラリペア公式が指示する手順)
崩壊したビス穴にCRC 5-56を吹いたビスを締め込みます。
崩壊したビス穴を補完するようにプラリペアを盛って補修完了です。
プラスチックに関しては、プラリペアがあればもうどうにでもなるじゃんという全能感が支配する瞬間です。
MS-DOS版Mobile Gear(モバイルギア)に多い電池蓋の爪折れもプラリペアで補修可能です。
これも恐らく多いと思われるモデムポートのカバーの爪折れもプラリペアで補修可能です。
ベゼルの折れも直ります。
要するにプラリペアがあればプラスチックに関してはどうにかなってしまいます。
プラリペアの使い方で難しいのが、最初は接着力がないことです。
粉とリキッドの比率が適当であれば5分で硬化なので、そこまでの固定をどうするかという問題があるのです。
最初の5分、手で固定で乗り切るというやり方が一つ。
よくやるのが、片側をテープで止め、反対側からプラリペアを充填してテープで止めた面を上にするというものです。
プラリペアはどのように固定するかの工夫さえできれば、プラスチックに対する認識が180度変わるほど本当に便利な道具です。
使用を諦める、廃棄を覚悟するような状態のMobile Gear(モバイルギア)でもきれいに直ります。
もうMS-DOS版Mobile Gear(モバイルギア)のような携帯PCが出ることは二度とないでしょう。
貴重な一台、補修にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。