ダイソー「密封容器5.5L」で作るフィラメント送出機能付きドライボックス
2021/09/22
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2021/09/22
フィラメントは、3Dプリンターでの使用中に湿気を吸わせてしまいがち。
3Dプリンターで使用している間もフィラメントを湿気から守る、フィラメント送り出し機能付きドライボックスの作り方をまとめました。
もくじ
3Dプリンターで造形素材として利用する樹脂フィラメント。
実は湿気に弱いのです。
吸湿したフィラメントはどうなるか? 特に吸湿しやすいTPUでの例を挙げます。本来透明な仕上がりになるはずが白く濁り、ツルツルになるはずの表面はザラザラな仕上がりになってしまいます。
高湿度下では、1週間程度あればTPUは湿気を吸って目に見える形で造形不良を起こすようになります。
▼左: 吸湿したフィラメントによるもの 右: 正常なフィラメントによるもの いずれも同条件で出力
これは出力条件を変えても救済はできません。
フィラメントが湿気を吸うと造形不良を引き起こす一方、その因果関係や吸湿の進行度は目に見えないため、出力条件の変更では解決できない造形不良に悩むことになりえます。
従ってフィラメントを普段から湿気に触れさせないようにする扱いが必要となってきます。
フィラメントは湿気を遮る密封容器で保管するといいでしょう。
密封容器の中には乾燥剤を入れ、容器の中に入った湿気を除去すると理想的です。
筆者はフィラメントが3つ〜4つ入るダイソーの「密封容器 12L」にフィラメントを保管し、容器の中には強力な乾燥剤を入れて、フィラメントを湿気から遠ざけています。
「密封容器 12L」は、後出する「密封容器 5.5L」と奥行きが違うだけのものです。
筆者はスーパーカラリットという乾燥剤を使っていましたが、今は1kgで1000円程度のA型シリカゲルを100円ショップに売っているだし袋に入れて使用しています。吸湿状態が粒の色で分かり、吸湿してだめになってもフライパンで加熱すると回復が可能という性質に惹かれました。
だし袋以外にも、ストッキング、ペーパータオル、コーヒーフィルターなどシリカゲルを入れておくのに使えるものはいろいろあります。
中のシリカゲルの色が分かるものがよいかと思います。以前は中身がよく見える排水口に使う水切りネットを使っていましたが、少し漏れてくるので使うのをやめました。
目の細かい白いストッキングがあればそれがよさそうです。
様々な問題を引き起こす湿気ですが、湿気は目には見えません。
「見える化」していると何が起きているか分かり、管理が楽になります。
筆者はAliExpressでXiaomiの温湿度計LYWSD03MMCをその目的でいくつか買って使っています。
まとめ買いすると信じがたいことに400円ほどで買えてお得です。
湿気から守られた密封容器から取り出し、3Dプリンターにセットしたフィラメント。
プリント後にフィラメントをすぐ密封容器の中に戻せばいいのですが、実際にはアンロードが面倒でそのままにしておきがちです。
しかし、そのまま置いておくと、当然のことながらフィラメントは湿気を吸ってしまいます。
湿気を吸ってしまったフィラメントは、乾燥剤を入れた密封容器の中に戻しても元通りにはなりません。
乾燥剤を入れた密封容器に戻せば元通りになると考えがちですが、それは間違いです。
フィラメントが吸い込んだ湿気は加熱して水蒸気として放出させ、それを乾燥剤で吸着といった手法でかなり回復することができます。
裏を返せば、加熱しないことにはフィラメントが吸い込んだ湿気は取ることができないわけです。
フィラメントの加熱乾燥はそれを目的とした製品がいくつか売られており、それを使うと簡単にフィラメントの乾燥ができるのですが、吸湿と乾燥を何度も繰り返すと、中央に空洞が空いてしまうといった形で劣化が起きることもあるようです。
フィラメントの加熱乾燥という挽回手段はあるものの、それに頼り切りになるのはまたよくないことではあるわけです。
従って、普段からフィラメントに湿気を吸い込ませることがないように扱うに越したことはない、という結論になります。
フィラメントは乾燥剤入りの密封容器に保管していれば、フィラメントが致命的に湿気を吸うことはありません。
密封容器での保管を徹底していれば、湿気を吸うのは3Dプリンターにセットしている間だけということになります。
3Dプリンターにセットしている間も湿気を吸わせない方法があれば、フィラメントは常に湿気から守られるわけですが、果たしてそんなことはできるのでしょうか?
湿気の影響を認識した3Dプリンターユーザーが作り始めるものがあります。フィラメント送り出し機能付きの密封容器、いわゆるドライボックスです。
これがあれば「3Dプリンターにセットしている間も湿気を吸わせない」が実現できるわけです。
ダイソーが販売する「密封容器5.5L」は、以前からこの用途にうってつけの素材として愛用されているようで、事例は枚挙にいとまがありません。
それを使って筆者が製作したドライボックスを簡単に紹介します。
ベースとなる「密封容器5.5L」は蓋にロック機構の付いた密封容器です。
密封容器の蓋には柔らかなシリコンゴムで作られたパッキンが付いており、ロック機構で固定すると気密性が保たれます。
適切な乾燥剤を中に入れておくと、湿度が70%を超える梅雨時でも、内部の湿度は20%程度、またはそれ以下に抑えることができます。
底面にはフィラメントのスプールを転がせるスプーラーが固定されています。
レールに沿ってスライドし、様々な幅のフィラメントスプールに対応可能です。
スプールの頭上には棚が設置されており、そこに乾燥剤を置くことができます。
乾燥剤用の棚には、温湿度計を固定するブラケットが取り付け可能で、ケースの外から内部の温度と湿度が確認できるようになっています。
採用したXiaomiの温湿度計はBluetoothによる通信機能付きで、離れた場所から無線で監視が可能です。
スプールからケースの外にフィラメントを引き出す部分にはクイック継手を使っており、そこからテフロンチューブを伸ばし、3Dプリンターのエクストルーダーに導いていくことができます。
クイック継手はエアコンプレッサーでも使うパーツで、テフロンチューブを差し込むと気密性が生じ、フィラメントが外気に触れるのは、テフロンチューブの先の方だけといった感じになります。
ケースの底にはケースを立てて設置するのに必要な足がついています。
今回は、この大変役立つフィラメント送り出し機能付きドライボックスの作り方を紹介します。
フィラメント送り出し機能付きドライボックスの製作に必要な材料のリストが以下となります。
■ダイソーで調達
品名 | 内容量 | 価格 |
---|---|---|
ダイソー「密封容器5.5L」 | 1個 | 300円 |
厚みのある20mm幅の強力両面テープ(ゴム足固定用) | 1個 | 100円 |
乾燥剤を固定する適当なマジックテープのベルト | 6本程度 | 100円 |
乾燥剤を入れるだし袋など(シリカゲルの色が見えるものがよい) | – | 100円 |
■Amazonで調達
品名 | 内容量 | 使用量 | 価格 |
---|---|---|---|
クイック継手 PC4-M6 | 5個 | 1個 | 約900円 |
テフロンチューブ 外径4mm 内径2mm(3Dプリンターのお古でも) | 10m | 30cm程度 | 約1,800円 |
NSK ミニチュアベアリング 608ZZ | 4個 | 4個 | 約670円 |
A型シリカゲル | 1kg | 50g程度 | 約880円 |
■AliExpressで調達
品名 | 内容量 | 使用量 | 価格 |
---|---|---|---|
Xiaomi 温湿度計 LYWSD03MMC | 4 | 1 | 1個約400円(送料込) |
■ホームセンターなどで調達
品名 | 使用量 |
---|---|
M6ナット | 1個 |
M3 ナット | 2個 |
M3 ネジ 10mm | 10本 |
キーパーツであるダイソー「密封容器5.5L」。
300円商品です。無色透明、透明赤、透明青、透明緑の4色あります。
6個まとめてであれば通販で買うことができます。
筆者は最初に渋谷の道玄坂のダイソーに買いに行きましたが、扱いがありませんでした。
下北沢のRecipe SHIMOKITA5階のダイソーで入手できました。できるだけ大型店を狙うべきでしょう。
比較的大きい商品なので店頭の在庫が枯渇しがちなようで、筆者の購入時、店員の方に在庫を確認してもらい、バックヤードから出してもらいました。
Recipe SHIMOKITA5階のダイソーでは、図の辺りにあります。
他店舗での「密封容器5.5L」目撃事例がありましたら、コメント等でお寄せください。
この製品は4個買うと送料込みで1台当たり400円程度と大変安いのですが、Bluetooth LE搭載で、アプリからモニタリングできます。
Android版のアプリには登録台数に制限がなさそうですが、iOS版のアプリは3台までしか登録できないようです。
プロトコルが解析されていてPythonなどから値が取れるため、湿度が○%以上になったら乾燥剤の交換を促すプッシュ通知を送る、といったようなことが可能です。
アプリからだと1台1台接続しに行って確認しないとならずあまり使い勝手が良くありませんが、Raspberry Pi辺りで定期的にデータを集め、全所有機のグラフを一覧できるWebサービスを作るとより便利に使えそうです。
カスタムファームウェアもありました。
製作に必要なパーツのSTLファイルをダウンロード可能にしておきました。
Fusion360などで開いて編集できるSTEPファイルも同梱していますので、Remixも可能です。
適宜出力してください。筆者はゴム足だけTPUを使い、ほかはABSで出力しています。
スプーラーは同じくthingiverseに登録されているものを使います。
左右のパーツをつなぐレールに穴開けが必要なため、レールだけ筆者によるRemixのものを使います。
■パーツリスト
クイック継手をそのまま使うと、ケース内側でフィラメントが削れてしまいます。
クイック継手ケース内スムーザーは、それを回避するためのパーツです。
ナットとの嵌合が緩い場合は、ナット側にテープを巻いて調整するといいでしょう。
密封容器には、部品取り付けのための穴を開けます。
クイック継手を取り付けるところはM5.5〜M6の穴、ほかはM3です。
穴空けには、穴空けガイドが使えます。上部穴空けガイド(hole_punching_template_top_1.7mm.stl)と、下部穴空けガイド(hole_punching_template_bottom_1.7mm.stl)をプリント。
ケースに当てがってキリなどで下穴を開け。
それをドリルで拡張します。筆者は2,000円ぐらいの電動ドライバーにドリルビットを取り付けて使っています。複数作る予定があれば、電動ドライバーはぜひ入手すべきです。
スプーラー用レールRemix(spooler_rail.stl)には、片側にすっぽ抜け防止の突起が付いています。それが外側に来るように取り付けます。
ゴム足も、同様にして位置合わせできるようにしています。
20mmの両面テープを裏に貼って固定します。
筆者はA型シリカゲルのほか、いわゆる中華モバイルドライという乾燥剤を使っています。
これは吸湿後、加熱によって再生可能な乾燥剤とヒーターを、一つのプラスチック箱の中に詰めたもの。
本体の前面窓にインジケーターとしてのA型シリカゲルが使われており、再生するとシリカゲルは青に。
湿気を吸ってくるとそれがピンク色に変色するので、再生の要不要が色で判断できる仕組みです。
内部に使われている乾燥剤は不透明な白色で、A型シリカゲルとは違う種類のもののようです。
吸湿して再生が必要になったら、100V電源に接続すると内蔵されたヒーターが発熱し、乾燥剤が含んだ湿気が蒸発。本体前面窓のA型シリカゲルがまた深い青に戻って再生が終わったことを知らせてくれます。
再生が簡単で半永久的に使えるため、大変優れたアイテムです。
今回配布したSTLデータの棚板は、この中華モバイルドライの使用を想定したサイズになっています。
これを使うと、密封容器の中の湿度を10%台にまで下げることが可能です。