「Kingston MobileLite Wireless G3 (MLWG3)」の間違った使い方【多機能WiFiストレージ】
2016/12/19
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2016/12/19
DIMM、USBメモリ、SDカードなどメモリ関連製品でおなじみKingstonから、WiFiストレージの新製品「Kingston MobileLite Wireless G3 (MLWG3)」、「MobileLite Wireless Pro (MLWG3/64)」が近日発売予定です。
Kingstonさんから発売前のサンプル機を提供していただいたので、今回はそれを使って本機についてレポートします。
「Kingston MobileLite Wireless G3(MLWG3)」は本体に備わったUSBポート、SDカードスロットに挿入したSDカードやUSBメモリーをスマートフォンからアクセスできるようにするWiFiストレージとして機能するのは元より、モバイルバッテリーとしても機能。
詳しくは後述しますが、WiFiは5GHzに対応し、手持ちのWiFiストレージ中で最速の転送スピードでした。
また、同じく本体に備わったイーサネットポートにインターネットに接続されたイーサネットケーブルを接続すれば、WiFiアクセスポイントになります。有線LANしかない環境に導入すれば、スマートフォンやタブレット、PCやゲーム機をWiFiでインターネットに接続可能。
この三役をこなす便利な一台です。
価格は「Kingston MobileLite Wireless G3 (MLWG3)」が約5,317円。「MobileLite Wireless Pro (MLWG3/64)」が約1万円。
「Kingston MobileLite Wireless」シリーズの第三世代の製品です。
日本ではマイナーかつ、同種の製品はいくつも発売されていて注目度は低いとは思うのですが、ちょっと面白い情報を後述しましたので、ぜひ読んでいってください(Table of Contentsでネタバレ)。
もくじ
「Kingston MobileLite Wireless G3 (MLWG3)」(以下MLWG3、MLWG3/64)はどんな製品なのでしょうか?
大きさは115mm x 80mm x 24mmで10,000mAhのモバイルバッテリー程度。
重さは192g〜194g。10,000mAhのモバイルバッテリーの8割程度で、モバイルバッテリーだと思って持つと軽く感じます。
MLWG3の外装は乳白色かつ成型色のプラスチックで、高級感には欠けます。
MLWG3/MLWG3/64はリチウムポリマーバッテリーを内蔵し、単独で動作。
本体への充電は、モバイルバッテリー同様本体側面のMicroUSBポートからできます。最大入力電流は不明。外部から電源供給をしながらの使用も可能です。
5,400mAh(MLWG3)、6,700mAh(MLWG3/64)の日本製リチウムポリマーバッテリーを内蔵。最長11時間(MLWG3)/12時間(MLWG3/64)継続使用可能。
本機からは、USBポートを介して最大2Aで外部に給電可能。つまり、モバイルバッテリーとしても使えます。おおよそスマートフォンを2回フル充電できる容量に相当します。
MLWG3では、USBポートから3,640mAhの電流を取り出せました。効率は67%とかなり優秀(※)。
※計測にはRT-USBVACを使用。
一方で、2Aまで電流供給が可能というものの、1.4Aほど流れる超高輝度LEDライトを接続したところ、保護回路が働いて電源供給が遮断されてしまいました。大電流を流す目的では期待できないと考えた方がよさそうです。
MLWG3、MLWG3/64のWiFiは2.4GHz 802.11b/g/n & 5GHz 802.11acに対応。2.4GHzと5GHzの両方を同時に利用できます。
セキュリティはWPA2に対応。
本機から家庭のアクセスポイントなどに接続する、ブリッジ接続にも対応しています。iOSのインターネット共有で作ったアクセスポイントへの接続を確認しています。
Ethernetポートを備え、有線LANをWiFi化するWiFiのアクセスポイントとしても使えます。
ホテルに有線LANしかない。そんな場合に、本機を介することでスマートフォンやタブレットがネットワーク接続できるようになります。
MLWG3は電源を投入するとセキュリティなしでSSID「MLWG3-5G-C470」(5GHz)、「MLWG3-5G-C470」(2.4GHz)が立ち上がるので、そこへ接続。
5GHzのSSIDに接続したところ、802.11nで接続され、転送レートは150Mbpsとなりました。
MLWG3のデフォルトのIPは192.168.202.254。接続機器にはIPアドレス192.168.202.1xxが割り振られます。
接続が完了したらWebブラウザで「http://192.168.202.254」、もしくは「http://mobilelite.home」に接続するか、専用アプリ「MobileLite Wireless」(Android OS、Amazon Fire OS、iOSに対応)を立ち上げてセキュリティなどの設定を済ませます。
ブリッジ接続の設定(Network Connection)を済ませていないとOS XではメニューバーのWiFiアイコンに「!」が付きますが、この状態でも「http://192.168.202.254」へ接続が可能です。
本体側面にはUSBポートとSDカードスロットを備えます。USBメモリなどのUSBマスストレージクラス製品や、SDXCカードを挿入してWiFi経由でスマートフォンなどからアクセス可能にするものです。
上位機種のMLWG3/64は、それに加えて64GBのストレージを内蔵しています。
SDカードスロットはSD、SDHC、SDXC、microSDに対応。microSDHC/microSDXCは、アダプタの利用で読み取りが可能。
USBポートには各種USBマスストレージ機器を接続可能で、手持ちの80GB HDDの動作を確認しました。手持ちのものは非対応のHFS+フォーマットのHDDばかりなので、少し古いHDDでの動作確認となりました。
対応するファイルシステムは、FAT、FAT32、NTFS、exFAT。
ファイル転送のプロトコルとしてはhttpとsambaに対応。専用アプリ「MobileLite Wireless」や、Webブラウザ、sambaに対応したクライアントでファイルのやりとりが可能です。
接続経路によって、sambaが使えるかどうかに違いが出てきます。
PORT | STATE | SERVICE |
---|---|---|
53/tcp | open | domain |
80/tcp | open | http |
139/tcp | open | netbios-ssn |
445/tcp | open | microsoft-ds |
5190/tcp | open | aol |
8080/tcp | open | http-proxy |
PORT | STATE | SERVICE |
---|---|---|
53/tcp | open | domain |
80/tcp | open | http |
5190/tcp | open | aol |
8080/tcp | open | http-proxy |
PORT | STATE | SERVICE |
---|---|---|
53/tcp | open | domain |
80/tcp | open | http |
139/tcp | open | netbios-ssn |
445/tcp | open | microsoft-ds |
5190/tcp | open | aol |
8080/tcp | open | http-proxy |
USBポートとSDカードスロットは独立しており、同時使用ができます。
専用アプリ「MobileLite Wireless」などを使い、互いの間で任意の形式のファイルのコピーや移動ができます。
USBポートに挿入したカードリーダー+SDカードから、隣のSDカードスロットに挿入したSDカードに、またはその逆方向にファイルやフォルダのコピー/移動が可能。
試しに、専用アプリ「MobileLite Wireless」でUSBポートに挿入したカードリーダー+SDカードから、隣のSDカードスロットに挿入したSDカードに1GBのファイルのコピーを指示してみましたが、終わる気配がないので途中で中断しました。いったんスマートフォン側にコピーする動作が入っているのかもしれません。数MB〜数十MBといったサイズのファイルの場合は、あまりストレスなくコピーが可能でした。
後述のtelnet経由にてunixコマンドを使いコピーした場合には当然コピーはMLWG3の中で完結し、1GBのファイルのコピーは1分46秒で終了しました。
# cd /media/SD_Card1 # time cp DUMMY001.mp4 ../USB1/ real 1m 46.52s user 0m 0.29s sys 0m 36.94s
専用アプリ「MobileLite Wireless」はOpen In…で他のアプリにファイルを渡せる一方で、他のファイルからOpen In…経由でファイルを受け取ることができない仕様。また、アクティビティは実装されていません。
samba経由で接続すると、USBポートとSDカードスロットの両方が見えます。
MLWG3に5GHzで接続。1GBのファイルをsamba経由でOS Xから転送したところ、6分で終了。1分当たり170MBのペース(2.8MB/秒)で転送できました。
sambaに対応しているので、優秀なネットワーク対応ファイル管理ツールでもあるGoodReaderとの組み合わせが便利です。
GoodReader – PDF Reader, Annotator and File Manager
カテゴリ: Productivity
販売元: Good.iWare, Inc.(サイズ: 36.5 MB)
全てのバージョンの評価: (875 件の評価)
専用アプリ、MobileLite Wirelessには、コピー、移動、リネーム、削除などの基本的なファイル管理のほか、動画、音楽の再生機能があります。
そのほか、以下のものをバックアップ/レストアが可能です。
住所録、スケジュールは今どきクラウド同期になっているので、バックアップを取ることの意義は微妙かもしれません。
カメラロールのバックアップ/レストアには一定の需要がありそうですが、僕のカメラロールは動画含め30GBほどあり、長大な時間を要するため諦めました。
MobileLite Wireless
カテゴリ: Entertainment
販売元: Kingston Digital, Inc.(サイズ: 5.3 MB)
全てのバージョンの評価: (0 件の評価)
MLWG3の転送スピードがなかなか速そうだったので、手持ちのWiFiストレージとの比較をしてみました。
1GB(1024MB)のファイルを転送し、それにかかった時間を計測しました。
プロトコルはすべてHTTPです。
機種 | 平均転送速度 | 1GBの転送時間 |
---|---|---|
MLWG3 | 平均5.14MB/秒 | 3分10秒 |
PQI AirPen | 平均3.89MB/秒 | 4分11秒 |
PTW-WMS1 | 平均3.05MB/秒 | 5分20秒 |
REX-WIFIUSB1 | 平均2.42MB/秒 | 6分43秒 |
PQI AirDrive | 平均1.08MB/秒 | 15分7秒 |
CloudFlash | 平均859KB/秒 | 19分23秒 |
PQI AirCard | 平均851KB/秒 | 19分35秒 |
PQI AirCard(CloudFlash改造) | 平均832KB/秒 | 20分2秒 |
FlashAir 16GB | 平均815KB/秒 | 20分26秒 |
FlashAir 8GB | 平均624KB/秒 | 26分43秒 |
MLWG3の平均転送スピードは5.14MB/秒で、手持ちのWiFiストレージの中では最速を記録しました。過去、FlashAirやPQI AirCardの転送スピードに物足りなさを感じた人にとっては、異次元の高速であると言えます。
デジカメで撮影した画像入りのSDカードを挿入し、スマートフォンなどに転送。デジカメで撮影したSDカード上の画像をHDDに退避する用途で使ってみました。
パフォーマンスを出すために5GHzで接続。
専用アプリの使い勝手はなかなかです。RICOH GRで撮影した1枚6MBのJPEGファイルのサムネイルを、どんな魔法か1枚1秒かからず生成していきます。
サムネイルはiPhone上で見るには十分なサイズと画質で、タップすると拡大表示でき、写真の出来具合などもサムネイルで判断できます。むしろ、これが実画像なのかと思ってしまうぐらい。
ここからカメラロールなどへの保存を指定して、初めて実画像が転送されます。
フォルダ内の画像をあらかじめ飛び石で選択したり、全選択して一気にカメラロールに保存できます。
同じ流れでSDカードからUSBマスストレージ機器に移動、といったこともできます。
大概WiFiストレージの純正アプリというと出来に失望してWebブラウザでの利用や代替アプリの案内をするのですが、これは十分な出来です。
写真をOpen In…で別アプリ、例えばInstagramに渡すことや、アプリ自身でFacebookやTwitterに写真付きの投稿をすることもできます。
従前のWiFiストレージより軽快感があり、メディアを二つセットできることによる柔軟性には好感を得ました。
ただ、Webブラウザでのアクセス時にはブラウザ上には画像のサムネイルが表示されません。
PCへの画像の転送のためにわざわざMLWG3を使うこともありませんが、可能なら改善を期待したいところです。
内部には jquery.lightbox_me.js があったりするので、そのうち実装されるかもしれません。
ただ、画像の転送はかなり早く、約6MBのRICOH GRで撮影した画像は1秒かからず転送が終わり、ストレスなくサクサクとWebブラウザ上で見られます。
これでサムネイルさえ付けば不満はありません。
$ time wget http://192.168.202.254/media/SD_Card1/DCIM/918RICOH/R0150030.JPG --2016-05-03 14:51:20-- http://192.168.202.254/media/SD_Card1/DCIM/918RICOH/R0150030.JPG Connecting to 192.168.202.254:80... connected. HTTP request sent, awaiting response... 200 Ok Length: 6127616 (5.8M) [image/jpeg] Saving to: ‘R0150030.JPG’ 100%[======================================>] 6,127,616 8.30MB/s in 0.7s 2016-05-03 14:51:21 (8.30 MB/s) - ‘R0150030.JPG’ saved [6127616/6127616] real 0m0.903s user 0m0.020s sys 0m0.139s
動画の再生を試してみました。例によってパフォーマンスを出すために5GHzでの接続は前提。
1280×720、H.264のMP4ファイルは専用アプリで問題なくストリーミング再生可能。
MobileLite Wireless
カテゴリ: Entertainment
販売元: Kingston Digital, Inc.(サイズ: 5.3 MB)
全てのバージョンの評価: (0 件の評価)
オーディオ | MP3、WAV |
---|---|
ビデオ | m4V、mp4(H. 264 ビデオ CODEC) |
画像 | jpg、tif |
文書 |
1440×1080、1920×1080のMPEG2-TSファイルはsamba経由でInfuseを使ってストリーミング再生可能でした。
iPhone 5sでの再生においてときどきカク付きが生じますが、基本的には滑らかに再生されます。録画サーバとの組み合わせで便利に使えますね。
5GHzの恩恵か、MPEG2-TSが実用的に再生できることに驚きを禁じ得ませんでした。
まだエンコードで消耗してるの?
Infuse
カテゴリ: Photo & Video
販売元: FireCore, LLC(サイズ: 47.9 MB)
全てのバージョンの評価: (98 件の評価)
MLWG3で起動しているサービスは下表の通りで、シェルログインに使えるtelnetはありません。
PORT | STATE | SERVICE |
---|---|---|
53/tcp | open | domain |
80/tcp | open | http |
139/tcp | open | netbios-ssn |
445/tcp | open | microsoft-ds |
5190/tcp | open | aol |
8080/tcp | open | http-proxy |
しかし、telnetサービスを起動する手法が有志により確立されています。
以下に掲載するzipファイルをダウンロード後解凍。MLWG3に挿入するメディアの直下(ルート)に置いてMLWG3の電源を投入するというものです。
中身は「mlwG3_v;telnetd; .x.x.bin」というファイル名の0バイトのファイルです。
起動時に実行される「/sbin/upgrade.sh」に、次のような行があります。
FW_buf2=`ls /media/*/mlwG3_v*.*.*.bin`
「mlwG3_v;telnetd; .x.x.bin」というファイル名にしておくことで、ファイル名の途中にある「telnetd」が実行されるという仕組みです。
いわゆるシェルスクリプトインジェクション、OSコマンドインジェクションといわれる手法ですね。
ログインは、ユーザ名 ‘admin’ でできます。パスワードはかかっていません。
MLWG3はストック状態でもなかなか完成度の高いデバイスですが、telnetを有効化すると俄然遊びがいが出てきます。
ここにあるbusybox-mipselがMLWG3で動作します。
ftpdの動作を確認しました。
#!/bin/sh /media/SD_Card1/busybox-mipsel tcpsvd -vE 0.0.0.0 21 /media/SD_Card1/busybox-mipsel ftpd /
telnetで接続して調査したところ、非サポートの機能として3G USBドングルにも対応している模様です。あんまりスマートではありませんが、いわゆるポケットWiFiとしても使えそうです。
そのほかの隠し設定画面その1:
そのほかの隠し設定画面その2:
シェルスクリプトインジェクションを応用し、起動時の任意のシェルスクリプトの実行に挑んでいるものの、今のところ成功していません。もし成功したら教えてください。
ちなみに、シリアルコンソールの端子も既に判明していて、信号レベル3.3V、57,600bps無手順での接続が確認されています。
USBシリアル変換アダプターは、これがおすすめです。
日本では知名度が低くてピンと来る人は少ないと思うのですが、シリーズ初代となる「Kingston MobileLite WIRELESS (MLW221)」、先代となる「Kingston MobileLite Wireless G2 (MLWG2)」は、いずれも組み込みシステム用のLinuxディストリビューションOpenWrtが移植されるなど素晴らしい発展を遂げました。
今回もそっち方面からの注目度、そっち方面での期待度が高い製品になっています。
「Kingston MobileLite Wireless」シリーズのハッキングについては、OpenWrtのフォーラムが本拠地となって情報交換が行われています。
MLWG3も界隈から注目されており、OpenWrtのフォーラムのMLWG2スレッドの後ろの方からMLWG3の初報に沸き、話題がMLWG3に移行しています。
そして、MLWG3専用スレッド設立。
既に、MLWG3にも、ドイツのHLK氏によりOpenWrtのポートが始まっています。MLWG3上でも動作しているとのことです。国産のWiFiストレージ製品には望めない発展性が備わっている点が刺激的です。
HLK氏によるMLWG3ハッキングのまとめ記事は以下です。
本体に付いているLEDをgpioコマンドで制御する方法がelektroman氏によってポストされていました。telnet経由で長時間かかる処理を実行する際に使えそうです。
OSをOpenWrtに載せ替えた先代MLWG2にHIDのバーコードリーダーを接続して、端末に仕立てた例がありました。
MLWG3でも参考になると思われるMLWG2のハッキングについてのまとめです。
こちらは、公式のMLWG3のサポートページ。既に v3.0.0.19 (MLWG3 用)、 4.0.0.14 (MLWPRO 用)のファームウェアアップデートが提供されています。
こちらのスクリプトを使うことで、カーネルイメージを解凍できます。(これをどう使えばいいのかよく分かってない)
初代のMLW221については、Kingstonからソースコードが公開されています。
MLWG3、MLWG3/64のソースコードも公開されました。
MLWG3、MLWG3/64は、モバイルバッテリー、WiFiストレージ、ポケットルーターとしてまずまずの使い勝手を持ち、将来的にはOSのOpenWrtへの載せ替えも選択肢になる面白い製品として非常に感銘を受けました。
普段は10,000mAhのモバイルバッテリーを使っているのですが、正直10,000mAhを使い切ることはほとんどありません。
その安心感が大容量バッテリーの魅力なのですが、それだったら、使わないバッテリーの重さ分スマートフォンの機能を拡張できるこういう製品を持ち歩く選択も全然ありじゃないでしょうか。
とりあえず、自動化においてメリットになるftpサーバの自動起動を目指していじくり倒したいと思います。
面白い使い方を発見したら教えてくださいね!