Titanエクストルーダー版とは

 

2021年2月現在ではAliExpressでのみの販売で、日本のAmazonでの扱いはないが、MK8エクストルーダー採用の標準版と異なり、エクストルーダーにTitanクローンが採用されたKINGROON KP3Sが登場した。

AliExpressで見てみると分かるが、購入時に選べるオプションの一つといった感じの扱いになっている。

このTitan版が今後の標準仕様になるとのことだ。日本のAmazonの販売分も、いずれこのTitan版になるものと思われる。(2021年3月2日追記)

それを恐らく日本でいち早く入手されたMTNR探偵事務所(@mtnr)さんから写真をいただいたので、寸評を書いた。

Titanエクストルーダーとは、E3Dが開発したオープンソースハードウェアのエクストルーダー。

E3D純正版のほか、セカンドソースのクローンが中国企業によって製造販売されている。ANYCUBIC MEGA-SやANYCUBIC Chironなど、Titanクローンを標準搭載した3Dプリンターも販売されている。

Titanエクストルーダーだと何がいいのか?

Titanエクストルーダーには1/3の減速ギアが組み込まれている。

MK8エクストルーダーでステッピングモーターが30ステップ動いたらフィラメントが30送り出されるところ、Titanエクストルーダーではステッピングモーターが30ステップ動いてもフィラメントは10しか送り出されない。

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これの何がいいかというと、減速の過程でトルクが増えるところだ。

伝達効率が100%だと仮定すると、出力トルクは約3.3倍。

減速でトルクが増えるため、ステッピングモーターは薄型の、いわゆるパンケーキステッパーに交換可能。

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  • 標準のステッピングモーター
    • 保持トルク 26Ncm
    • 重量 230g
  • MK8エクストルーダー
    • 重量79g
  • パンケーキステッパー
    • 保持トルク 13Ncm
    • 重量 132g
  • Titanエクストルーダー
    • 重量60g

こう前提を置くと、

  • MK8エクストルーダー + 標準ステッピングモーター = 26Ncm 309g
  • Titanエクストルーダー + パンケーキステッパー = 42.9Ncm 192g

重量とトルク、いずれの点でもMK8エクストルーダーより優位になる。

ANYCUBIC機で散々Titanエクストルーダーを使ってきた経験からすると、KINGROON KP3SのMK8エクストルーダーによるフィラメント送り出しはやや頼りなく、悪条件に弱い感じがある。

例えば、レベリングがキツキツでノズル先端とヒートベッドとの間隔が狭い場合、Titanエクストルーダーはそれでもグリグリ強引に送り出してくるが、MK8エクストルーダーはレベリングのコンディションに敏感な感じがある。

造形物の綺麗さという点ではKINGROON KP3Sで出力した造形物はTitanエクストルーダーでなくとも綺麗なわけで、そこに直接寄与するものではないし、ANYCUBIC機の造形品質はKP3Sより全体的に低い傾向にあるものの、安定感はTitanエクストルーダーのANYCUBIC機の方が上回っていると感じる。

トルクが強くなっている分、フィラメントの送り出し側のコンディションの影響が少なくなり、フィラメントの押し出しが安定して、結果的に造形物のクオリティに影響を与える可能性はある。

また、Titanエクストルーダーは送り出しのギアの直後からかぶり付くようにあるフィラメントガイドの具合がよいようで、TPU、TPEのような軟質フィラメントの送り出しが安定する。

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MK8エクストルーダーの場合は、送り出しのギア直後の構造がTitanよりルーズで、TPUのような軟質フィラメントがそこでジャムりやすい。

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総じてTitanエクストルーダーは3Dプリンターから神経質さを減らし、運用を安定させる。これがメリットだ。

Titanエクストルーダー版KINGROON KP3Sフォトレビュー

では、早速Titan版KINGROON KP3Sを写真で見ていこう。

ちなみに、KINGROONが公式に提供するTitanエクストルーダーには、出荷時に組み込む今回紹介するタイプと、アフターパーツ専用のTitanエクストルーダーユニットの二つがある。

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今回紹介するのは、出荷時に選択できるタイプの方。

ステッピングモーターには薄型のもの、いわゆるパンケーキステッパーを採用。

その直下にパーツクーリングファン用の4020ブロアファンを搭載。なるほどこうするとほぼ厚さがそろうわけだ。

ステッピングモーターと向かい合ってTitanエクストルーダー。

その直下におなじみ爆音のヒートシンク用3010軸流ファン。

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ヒートシンクはV6タイプ。ヒートシンクファンは例のヒートシンクに直接抱き付くパーツで固定。

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ケーブルを上方向に伸ばすようにケーブルの押さえがあるのが目新しい。

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Titanは大きな減速用のギアが露出した構造になっていて、手動でフィラメントを送ったりするのがやりやすい。

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ヒートシンクがV6タイプなのに対し、ヒートブロックは標準仕様のKINGROON KP3Sと同様のV5タイプ。

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ノズルは標準仕様のV5 V6互換と異なり、Ender-3同様のMK8タイプに見える。ファンシュラウドのための高さを稼ごうということか。

パーツクーリングファンシュラウドはやはり左側からのみ吹き出すタイプ。3Dプリンターで作られたパーツのようだ。

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サーミスタはカートリッジタイプでも、真鍮パイプ入りでもなく、標準仕様同様にそのままヒートブロックに入れるタイプのようだ。

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なかなかまとまりよく作られているという印象。

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鉄製のステーはリニアブロック固定部から90度曲げ、ステッピングモーターとTitanエクストルーダー、4020ブロアファンとホットエンドを隔てているだけ。

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標準仕様のようにヒートシンクの周りを取り囲む部分がないため、改造には好都合だろう。

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総評

Titanエクストルーダーの意義については冒頭に書いた通りで、使うに越したことはない。

ホットエンドにステッピングモーターが連なって動くダイレクトエクストルーダー構成のKINGROON KP3Sでは、ホットエンド周りの軽量化が図られることには大きな価値がある。

パーツクーリングファンは4020ブロアファンで、標準仕様の3010軸流ファンより送風性能は上で、なおかつ不愉快な高音のノイズは相対的に穏やかではないかと思う。

送風は片側からだけなので、両側からの送風ができるように、ファンシュラウドに手を入れる必要はある。

ヒートシンクファンの3010ファンはおなじみ爆音ファンで要交換だが、囲いがない分改造の自由度は高い。

気になるのは、標準仕様では3D Touchを取り付けることが想定されたネジ穴が用意されていたが、このTitanエクストルーダー版にはそれがないらしいことだ。

Titanエクストルーダー版用に3D Touchマウントの方法を用意してくれるほどKINGROONがきめ細やかな対応をしてくれるかどうか、ちょっと怪しい。

そんなことはあるが、魅力的な選択肢であることは確かだ。

KP3Sコミュニティの中で、Titanエクストルーダー仕様はマイノリティであるがゆえに、Thingiverseなどでの他者によるパーツ供給が限られるであろうということは考慮に入れておいた方がいい。

改造目線で見ていくと、標準仕様のKP3Sの鉄製のステーは、ヒートシンクを取り囲む囲いの部分が改造に邪魔で、ある人はそこを金鋸で切り落とすことまでしていたが、このTitanエクストルーダー版KP3Sのステーには最初からそれがない。

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改造に好適な構造で、筆者の食指はかなり動いた。

なにせ、筆者は邪魔な部分を切り落とすための金鋸を買ってあり、でも面倒臭くなってミスミ辺りに囲い部分のないステーを発注しようと思っていたぐらいだからだ。

なおかつ、囲いのないステーをデザインして用意までした。

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KP3Sはリニアガイド1個、しかもその下の方でヘッドの重量を支える構造になっていて、重量バランスがあまりよくない。3Dプリント、つまり樹脂で代替品を作ると、その重みでのたわみが悪影響を与えないか気になるのだ。

自分で改造をやる人にとっても、Titanエクストルーダー版KINGROON KP3Sは魅力的な選択肢のはずだ。