Z軸の不具合対策

KINGROON KP3Sには、出荷時からZ軸に問題を抱えた個体が存在する。

結果として、Z面の造形不良として顕在化しがちだ。

この問題については味噌汁氏のブログが詳しい。

味噌汁氏は金属加工を伴うハードボイルドな修正を施しているが、筆者はプリント部品を使った軟弱な解決方法を模索した。

Z軸の各部名称をここで確認しておく。

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造形物のZ面造形不良の実際

KINGROON KP3Sの個体によっては、造形物のZ面に波状のゆらぎが出るものがある。

具体的には、次の写真のような症状のこと。

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▼しらかば犬氏より提供の写真

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Z軸不良の原因

原因は三つある。

1.Z軸ステッピングモーターの取り付け不良

Z軸ステッピングモーターは、鉄板製ボディの天面に取り付けられている。

後方左側の角に位置し、鉄板製ボディのプレス加工による角の曲面に隣接していて、Z軸ステッピングモーターと接触する取り付け面の一部が平面になっていないことがあるようだ。

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これに関係して、Z軸ステッピングモーターの回転軸が垂直になっていないことがあると思われる。

2.リードナットの取り付け面の板金不良

Z軸にあるリードナットは鉄板を折り曲げて作ったキャリッジに取り付けられているが、折り曲げ角が90度になっておらず、取り付け面の水平が出ていないことがある。

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3.リードナット取り付け穴の位置ズレと調整代不足

リードナットの軸と、ステッピングモーターの軸がずれている場合がある。

筆者所有の1台を例に取ると、リードナットの軸の中心が、あるべき位置から本体後ろ側にずれた状態になっている。

KP3S以外の機種にはリードナット取り付け位置に調整余地を設けてリードスクリューとの位置関係を補正できるようにしているものがあるが、KP3Sにはリードナット固定位置の調整余地があまりないのもよくない。

状態確認

状態確認をするには、一度リードナットを外してリードスクリューを自由にするのが一番だ。

そして、

  • リードスクリューが垂直に立っているか?
  • リードスクリューがリードナット取り付け穴の中心を通っているか?

これを確認する。

リードスクリューは垂直に立っていないと思う。

また、手で動かしてリードスクリューを垂直に立たせても、リードスクリューはリードナットの取り付け穴の中心を通っていないのではないかと思う。

対策

対策1: リードナットの取り付け位置を調整する

リードナットには、ほんの少しだけ取り付け位置を調整可能なアソビがあるので、運が良ければリードナットの取り付け位置を調整することで症状の改善が可能。

カプラを回してガントリーを天地の中程に移動させる。

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リードナットを固定している4本のネジを緩める。ちなみに、筆者はカプラから少しでも距離を取るため、リードナットを天地逆に取り付けた。

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Z軸フレームの上部には何も取り付けていない状態。デジタルノギスでカプラ直上でリードスクリューとZ軸のフレームを共に挟み、長さを測る。

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測定時、デジタルノギスの刃先がリードスクリューの溝に入ってしまわないように注意。切られたネジと交差するよう、デジタルノギスを前下がりに当てがえば、そうなることはないだろう。

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筆者が用意したこちらの調整可能アンチウォブルハットを取り付ける。

調整可能アンチウォブルハットを使うに当たっては以下のものが必要。

  • 608ZZミニチュアベアリング x 1
  • M3六角穴付きネジ x 25mm x 2
  • M3六角穴付きネジ x 12mm x 1
  • M3ワッシャー x 2
  • M3六角ナット x 3

取り付ける際、後からの調整のために、指で少し強く押せばベアリングの位置が動かせる程度にネジは緩めておく。

ワッシャーは、ナットの方に挟む。

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ネジが緩すぎると調整しづらいので、ベアリングを移動させるときに適度な摩擦が生じる程度の締め具合にする。

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続いて、デジタルノギスで調整可能アンチウォブルハット直下でリードスクリューとZ軸のフレームを共に挟み、長さを測る。

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カプラ直上の距離を参照し、この二つの長さが同じになるように調整可能アンチウォブルハットのベアリングの位置を調整する。

ガントリーがリードスクリューの天地の中程にあることを確認し、調整可能アンチウォブルハットのネジを締めてベアリングを固定。

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ベアリングを固定した後もデジタルノギスで計測し、ズレが生じていないか確認する。

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リードナットを固定している4本のネジを徐々に代わる代わる均等に締めながら、ガントリーを上下させて位置を馴染ませる。

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調整可能アンチウォブルハットを上に抜き、ガントリーを上下に動かしてもリードスクリューの角度が変わらないようであればOK。

もし、調整可能アンチウォブルハットを上に抜くと、途端にリードスクリューの角度が変わる、言い方を変えると、リードナットの位置が悪いのに調整可能アンチウォブルハットで無理やり押さえ込んでいるような状態ではダメ。

ベアリングの位置調整後の調整可能アンチウォブルハットを、リードスクリューに触らずにスポスポ抜き差しできる状態が理想。

調整し切れない場合は、リードナットの可動範囲を広げるためにリードナットスペーサーの導入を検討する。
対策2: リードナットスペーサーを使用する

基本的には対策1と同じで、リードナットの可動範囲を広げるためにリードナットスペーサーを取り付ける点だけが異なる。

リードナットのネジを緩めただけでは垂直が出ない場合は、リードナットの底にスペーサーをかましてリードナットの底を平らにし、リードナット取り付け場所を位置のずれた取り付け穴を通さないよう上に置き、下からネジ止めする。

こうやって調整余地を増やして垂直を出すことを試みるわけだ。

リードスクリューの垂直を出した後で、最後にリードナットを固定するのが肝要だ。

リードナットスペーサーのSTLは以下に置いておいた。

アンチバックラッシュリードナットは底面の突起がないため、これを使うのであればリードナットスペーサーを使わずとも調整余地が広がる。

それでも調整し切れなければ、リードナット固定にM2.5ネジを使って調整余地を増やす選択肢もある。

対策3: リードナット固定位置調整用アタッチメントを使用

リードナットの取り付け位置の調整余地が足りない場合は、筆者が用意したリードナット固定位置調整用アタッチメントを使用し、リードナット取り付け位置の調整余地を増やして事に当たる。

パーツBは、サポート面の荒れで水平が狂わないように、下図のように立てて出力する。

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リードナット固定位置調整用アタッチメントを使うに当たっては以下のものが必要。

  • M3六角穴付きネジ x 12mm x 8(ネジが切られていないリードナットを使用する場合は12)
  • M3六角ナット x 8(ネジが切られていないリードナットを使用する場合は12)

まずは、リードナット固定位置調整用アタッチメントを取り付ける。

リードナット固定位置調整用アタッチメント各部名称

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リードスクリューとリードナットを撤去。パーツBをリードナット取り付け穴のある鉄製のパーツに当てがい、リードナットの穴と中心を合わせる。

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M3六角穴付きネジ x 12mm x 4とM3六角ナット x 4を使って、パーツBの裏側にパーツCを固定。鉄製のパーツを挟み込んで動かないようにする。

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リードナットをパーツAにネジで緩く固定。後から位置を調整するので、リードナットを穴の中でカタカタ動かせる程度の締め具合にとどめる。

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パーツBの四隅にある窪みに六角ナットを挿入。

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リードナットを緩く取り付けたパーツAをパーツBの上に乗せ、M3六角穴付きネジ4本を緩く締め込む。

最後に、パーツAをZ軸のフレーム方向に押しながらM3六角穴付きネジをしっかり締め、パーツAを固定する。

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ここからは対策1の手順を踏襲するので、詳細は割愛する。踏襲してリードスクリューの垂直を出す。

リードスクリューの垂直が出たら、リードナットを固定している4本のネジのうち、アクセス可能な前と左の2本をラジオペンチなどで位置がずれないようにしっかり締める。

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: リードナット前側のネジを締める
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: リードナット左側のネジを締める

調整可能アンチウォブルハットを上に抜き、ガントリーを上下に動かしてもリードスクリューの角度が変わってしまわないようであればOK。

もし、調整可能アンチウォブルハットを上に抜くとリードスクリューの角度が変わる、言い方を変えると、調整可能アンチウォブルハットでリードスクリューを曲げ、無理やり押さえ込んでいるような状態ではダメ。

ベアリングの位置調整後の調整可能アンチウォブルハットを、リードスクリューに触らずにスポスポ抜き差しできる状態が理想。

こうなるように調整を繰り返す。

調整を終えたら調整可能アンチウォブルハットを上に抜き、リードスクリューをいったん撤去し、リードナット固定位置調整用アタッチメントのパーツAを取り外す。

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リードナットの4本のネジをしっかり締める。

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またパーツAをZ軸のフレーム方向に押しながらM3六角穴付きネジをしっかり締め、パーツAを固定する。

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リードスクリューを挿し直し、カプラにリードスクリューを固定。

最後に調整可能アンチウォブルハットを被せて完成。

まだ不満が残る場合

この調整・改造を施してもZ面の仕上がりに不満が残る場合は、次のチェックポイントを当たる必要があるかもしれない。

ステッピングモーターの取り付けが垂直になっていない

KINGROON KP3Sの個体によっては、ステッピングモーターの取り付け具合が良くなく、軸の垂直が出ていないことがあるようだ。

最初にステッピングモーターの軸が本体に対して垂直になっているかを確認する。

スコヤやさしがねのような専門の道具を使わずとも、直角が出ている紙片など身の回りのものを使って直角度を測るので構わない。

垂直が出ていなければ、その傾きに合わせてステッピングモーターの上部にワッシャーを噛ませるなどで補正する。

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リードナットの取り付け面の水平が出ていない

リードナットが取り付けられている鉄製のパーツの曲げ加工が良くなく、個体によってはリードナット取り付け面の水平が出ていないことがあるようだ。

この場合はリードナットを取り付けるパーツの折り曲げ加工部分を修正して水平を出すか、筆者が用意した調整可能Zキャリッジを使用する。

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この調整可能Zキャリッジの使用にはフィラメントしか用意する必要がなく、元の部品と交換するだけで済み、他の方法よりすぐに取り組めていいかもしれない。

取り付け後の調整方法は「対策1: リードナットの取り付け位置を調整する」と同様だ。

交換方法は、「プーリーホイールベアリングの調整」にヒントを書いた。

倒立Z軸で抜本的に問題を解決する

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ステッピングモーターの垂直が出ておらず、リードナットの取り付け面の水平が出ておらずということで問題が多く、Z面の満足なクオリティが出ない場合は、問題を起こす部分をすべてバイパスしZ軸を新しく作り直す方法を考案したので、採用を検討してみてもいいかもしれない。

ややカロリーの高い作業になり、デメリットもある。

プーリーホイールベアリングの調整と交換

ガントリーを直線的に上下動させるためにZ軸のフレームを挟み込んでいるプーリーホイールベアリング。

あまり質の高いプーリーホイールベアリングが使われていないので、Z面のクオリティを追求するなら質の高いものに交換するのも手だ。

また、一度ここは分解して調整した方がいいだろう。

やるべきことは以下の通り。

  • プーリーホイールベアリングの拭浄
  • Z軸フレームの拭浄
  • 偏心ナットへのマーク付け
  • 偏心ナットの調整によるプーリーホイールベアリングの挟み込みの強さを調整

リードスクリューを外し、3本のネジを外し、プーリーホイールベアリングを取り外す。

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プーリーホイールベアリングは、二つのベアリング、ワッシャー、そして樹脂製のホイールから成り、ネジを外すとバラバラになってしまうので部品が迷子にならないように注意する。

プーリーホイールベアリングの構成パーツを無水エタノールなどで拭浄する。

同様に、Z軸のフレームのプーリーホイールベアリングが当たる溝のところも異物などがないよう拭浄する。

取り外した偏心ナットの、ネジ穴が一番外周に寄っている面にマスキングテープなどで印をしておく。

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  • 印を付けた面をZ軸のフレーム側に向かわせる → プーリーホイールベアリングによるZ軸フレームの挟み込みは強くなる
  • 印を付けた面をZ軸のフレームと反対側にする → プーリーホイールベアリングによるZ軸フレームの挟み込みは弱くなる
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プーリーホイールベアリング周りを一度分解した後、元に戻すのが難しいので手順を書いておく。

  1. ホイールベアリングをZ軸のフレームから抜いた状態で元通り組み立てる。ホイールベアリングのネジは少し緩めにしておく
  2. 偏心ナットは印の面を外側へ向け、一番緩くする
  3. ガントリーにケーブルが結束バンドで結び付けられている場合は、一度結束バンドを切断して全部フリーにする
  4. Z軸フレーム一番上の樹脂製キャップを外す
  5. Z軸フレーム端の切断面に養生テープなどを貼っておき、ホイールを傷付けないように注意しながら、組み立てたガントリーをZ軸フレーム上から差し込む
  6. ホイールベアリングのネジを締める

リードスクリューを抜いて、レンチで偏心ナットを回し、プーリーホイールベアリングによるZ軸フレームの挟み込みの強さを調節する。

  • 印を付けた面をZ軸のフレーム側に向かわせる → プーリーホイールベアリングによるZ軸フレームの挟み込みは強くなる
  • 印を付けた面をZ軸のフレームと反対側にする → プーリーホイールベアリングによるZ軸フレームの挟み込みは弱くなる
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筆者は手を離してもガントリーがギリギリ下に落ちてこない程度のきつさに調節している。

ノズルをベッドにぶつけるとコトなので、ガントリーの下に物を置いてそうならないように予防する。

フレキシブルカプラの取り付け方(KP3S 1.0)

現在販売されているKINGROON KP3S 3.0はリジッドカプラでステッピングモーターとリードスクリューが接続されているが、KINGROON KP3S 1.0は、リードスクリューとステッピングモーターとをフレキシブルカプラで接続していた。

フレキシブルカプラは、真ん中がバネのような構造になっていて曲がり、回転軸のずれを吸収する効能がある。

これの取り付け方法が悪いとフレキシブルカプラがばねのように機能し、造形物の下層が潰れるいわゆるエレファントフットの症状が出る。

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そこで、正しいフレキシブルカプラの使い方とは違うかもしれないが、トラブル回避という観点からフレキシブルカプラ取り付け手順を精査した。

まずはフレキシブルカプラの下側、つまりステッピングモーター側のイモネジを締める。

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フレキシブルカプラの中にはステッピングモーターの5mm径、リードスクリューの8mm径の両方を接続するために段差があるが、ステッピングモーターの差し込み量は5mm側の末端に合わせる。

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ステッピングモーター側のイモネジの1本は、ステッピングモーターの軸の平面部分に垂直に当たるように調整して締める。

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残りの1本も締める。

ステッピングモーター側のイモネジを締め終わったら、今度はリードスクリュー側。

リードスクリューをフレキシブルカプラに差し込み、底付きしているのを確認した上で、フレキシブルカプラを指で上に引っ張り上げながら1本目のイモネジを締める。

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続いて2本目を締めておしまい。

最後に状態の確認作業。これを必ずやること。

フレキシブルカプラの上の部分でリードスクリューをつまみ、フレキシブルカプラに向けて下に押し込む。

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荷重を加えることでフレキシブルカプラが伸び縮みしないか、つぶさに観察する。

カチっとした手応えがあればOK。

フレキシブルカプラがわずかでもばねのように伸び縮みする場合は、そうならないようにこの手順をやり直す。

フレキシブルカプラのリードスクリュー側を引っ張り上げながらイモネジを締めるときに、いっしょにリードスクリューを持ち上げてしまうことがあるようだ。

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こうなっては元も子もない。

リードスクリューがフレキシブルカプラの底から浮いてしまわないようにリードスクリューを回してガントリーを持ち上げ、その重量を利用するのがいいが、リードスクリューがフレキシブルカプラに固定されていないこの状態では、リードスクリューから手を離すとガントリーの重みでリードスクリューが回ってガントリーが下がってきてしまう。

  1. リードスクリューを回してガントリーを持ち上げ
  2. リードスクリューが回らないように固定しながら
  3. フレキシブルカプラを上に引っ張り上げながら
  4. イモネジを締める

人差し指の付け根の部分でリードスクリューを押さえるとやりやすい。

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こうまでしなくとも、作業結果の確認さえ欠かさなければ、そのうちフレキシブルカプラが伸び縮みしない状態でリードスクリューを取り付けられるだろう。

2021年2月確認のZ軸の仕様が異なる新型について

AliExpress、日本のAmazonで2021年2月現在販売されているKINGROON KP3Sは、Z軸の仕様が変わっているようだ。

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  • フレキシブルカプラはリジッドタイプのカプラに変更
  • リードナットは12mmの長いものに変更
  • リードナットを固定するネジにスプリングワッシャー追加
  • Z軸のフレームの根元に補強材追加

カプラがリジッドタイプに変更になったということは、キャリブレーション工程が入ったか、加工精度が上がったことを予感させたが、実際にはそのようなことはなかった。