ジョイントマットでエンクロージャー製作

PLAは使いやすい

3Dプリンターを使い始めて最初に思うことは、PLAの使いやすさだ。

定着がよく、収縮が少なく、層間の癒着が強く、嫌な臭気がなく、吸湿の影響が小さく、特別な環境を必要とせず、安く、供給が多いとくれば、他のフィラメントを使う必要はないのでは? と思っても不思議でない。

PETGに手を出し、糸引きの多さ、層間の癒着の弱さを感じ、ABSに対してはAmazonのレビューを見て、そこに並ぶ反る、割れる、難しいといった感想から、選ぶまでもない、わざわざ自分から困難を背負うまでもない、自分にはPLAがあるのだから、と思っても仕方がない。

これは過去の筆者自身の話だが。

ABSは使いづらい?

しかし、実際にはフィラメントは使い分けをする必要がある。

PLAは熱に弱い。力が加わっている状況なら40度程度から曲がり始め、また継続的に力が加えられると常温でも変形が固定化されてしまうという、PLAだけに顕著な性質がある。

それに対し、PETGはPLAより耐熱性があり、紫外線に強いといった特徴から、屋外での使用を前提とした造形物に適している。収縮が少なく定着がいいので、PLAに次いで使いやすい。

ABSはPETGよりさらに耐熱性があるが、紫外線には弱い。糸を引かず、造形はPETGより綺麗。サポートが取りやすく、複雑な形状の造形に威力を発揮する可能性がある。

照り付ける日光によって高い温度に上がる自動車の室内に持ち込むもの、常設するものを作る場合は、PLAはもちろんのこと、PETGですらやや耐熱性が足りず、ABS一択となる。

※PC(ポリカーボネート)も選択肢になるが、PCの場合、造形に250度を超える温度を必要とし、3Dプリンター側がそれに対応していないとならない。そのほかASAも選択肢になるが、価格が高く、あまり売ってもいないという難点がある

その一方、ABSは収縮が大きく、造形物が反り、積層割れしやすい傾向があるのは確かだ。

しかし、3Dプリンターの造形スペースが壁で密閉されていると話は変わってくる。

扱いづらいABSも、密閉された空間内での造形だと、PLAほどでないにしろ、かなりやりやすくなる。

3Dプリンターの造形スペースが壁で覆われていると、ヒートベッドからの熱がそこに篭り、冷えると収縮を始めるABSでも、その収縮を抑えた状態で造形が可能となるからだ。

たかだか壁があるだけで、そんなに変わるものなのか? と思うかもしれないが、本当の話だ。

巷でABSの造形は難しいという話を聞いたとき、エンクロージャーありで造形したかどうか、という前提条件を確かめる必要があるぐらいには。

3Dプリンターの普及機は多くがオープンタイプでABSが使いづらい。

造形スペースが20cm四方の、テーブルが動く形式のものが最も普及しており、それを密閉させるとなるとかなり大きな覆いが必要となるため、最初から箱型の3Dプリンターを使っているケース以外で、ABS造形に適した環境を用意している人は少ないと思われる。

テーブルが前後に動くので、奥行きはテーブルの奥行き×2+αは必要となってくるのがネックになりやすい。

エンクロージャーの自作

KINGROON KP3Sも多分に漏れずオープンタイプでABSの造形に向いていない。しかし、比較的小型であるため、本体を囲うエンクロージャーの用意が現実的だ。

熱に弱い電源ユニットが別体式というのも効いてくる。

KINGROON KP3Sをエンクロージャーで覆えばABSの造形が可能となり、活用範囲が広がる。

以下のページで書いた通り、KINGROON KP3S用のエンクロージャーにはいくつか選択肢がある。

今回は、 @Tori3_ekusu 氏の投稿を参考にしたジョイントマットを使った製作方法を紹介する。

アルミフレームを使った立派なエンクロージャーを作っている人がKINGROON KP3Sユーザーにそこそこいるが、予算と手間を抑えた最低限のものがとりあえずあれば、という人に向けてのものだ。

ジョイントマットは、意外にも箱組みが可能。

また、加工性に優れ、普通のカッターで切れる。

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ジョイントマットには30cm、45cm、60cmといったサイズがあり、KINGROON KP3Sにぴったりなのは45cmのものだ。

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厚さは1cm、1.2cm、2cmなどから選べるが、ある程度の丈夫さはあった方がよいと思い、2cmのものをチョイスした。

つまり、筆者が選んだのは45cm x 45cm、2cm厚のものということだ。

ジョイントマットの箱組み

2cm厚のものを選ぶに当たっては、箱組みができるかどうかが心配だったが、筆者が選んだものに関しては全く問題なかった。

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収まり感と内部空間のサイズ

箱組みしたジョイントマットにKINGROON KP3Sを収納するとこのようになる。

内側のスペースのサイズは当然ながら縦横奥行き基本的に同じだが、実際のサイズを測ってみると横方向405mm、縦方向404mm。縦方向は多少潰れるようだ。

同一メーカーの2cm厚の製品なら、外寸450-405=45mmで外寸から45mm引いたものが内部空間の一辺のサイズになると思われる。

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ヒートベッドを前後させても問題ない。

ただし、ビルドステッカー、PEIばね鋼板のように磁気ベースから剥がすための持ち手の分はひっかかってしまう。

そのため、持ち手は左側に回して前後長を縮めるようにした。

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前面部の加工

ジョイントマットのジョイント部は、日常的に嵌め外しするにはいささか面倒。前面部に蓋状の構造と、窓が必要だろう。

カッターで2回くり抜いて、蓋と窓を作ることにした。

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まずはくり抜き1回目。蓋と枠ができた。端から6cm内側をくり抜いた。

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2回目のくり抜き。これで窓ができた。こちらも端から6cm内側をくり抜いた。

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出来た枠と蓋をはめ込んでみた。

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右側にヒンジを取り付けようと思ったが、ただくり抜いただけだとクリアランスが全くなく、このままだとスムーズな開閉は望めない。

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少し周囲を削って扉として機能するように加工しないとならないが、バッサリ切断するならまだしも、ブカブカにならないようにわずかに周囲を削るのは柔らかい素材ということもあって難しいので、筆者はヒンジの取り付けを早々に諦めた。

扉にこだわるなら、木材などで作った方がいいのではないかと思う。

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窓部分は、100均で買ったハードタイプの書類ケースから切り出した透明樹脂シートを裏側から両面テープで貼った。

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これだけでも使えなくないが、蓋を付け外しする取手と、奥に抜け落ちないようにするストッパーを兼ねるパーツを作り、左右両側に取り付けるつもりだ。

ユーティリティ

さて、実際の使い勝手はどうだろうか?

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前面の枠を嵌めると、外さずには本体が出せなくなるが、造形物の出し入れに支障はない。

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合わせ目部分からテフロンチューブ……。

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各種ケーブル類を割り込ませることが可能で、好きな位置からエンクロージャー内に導入できるため大変便利に感じた。

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このような特徴があるため、フィラメントや電源ユニットを外部に置くのが簡単だ。

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保温性能、防音性能

PC(ポリカーボネート)の造形を行なってみたが、全く問題なかった。

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防音性能はあまり高くない。やはり軽いからだろう。

ファンのノイズは高音が削られる感じはある。

ゴム足から伝わってくる低音が響くので、ダンパーを入れて使うことにした。

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ダンパーを入れると騒音の低音成分が減衰する。

上に積み上げて使えそう

このジョイントマット製のエンクロージャー。2cmの厚みが効いて、意外と縦方向の強度が高く、上に積み上げて使えそうだ。

実際にはやっていないので保証はできないが、2段は確実だと思われる。3段だと一番下の蓋が開けづらいかもしれない。

火災防止の観点からの追加工

このジョイントマットはPE(ポリエチレン)樹脂で出来ており、難燃性、遅燃性の素材だ。

ポリカーボネートのような自己消化性のプラスチックと比較すると燃えないわけではないので、それらよりは危険性は高い。

安全性を高めるために、内面にアルミテープを貼るなどしておくのがいいのではないかと思う。